大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和46年(ワ)10375号 判決

〔主文〕一 原告ら両名に対し

1 被告株式会社H商会は、別紙(イ)号および(ロ)号各物件目録記載のゴルフ用手袋を製造、販売してはならない。

2 被告S株式会社および被告Y化成株式会社は、前項記載のゴルフ用手袋を販売してはならない。

二 原告Fに対し

1 被告らは、おのおのその占有する別紙(イ)号および(ロ)号各物件目録記載のゴルフ用手袋を廃棄せよ。

2 被告株式会社H商会は、金四、八〇〇円およびこれに対する昭和四六年一二月二〇日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三 原告らのその余の請求を棄却する。

四 訴訟費用は、これを三分し、その二を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。

五 この判決の第一項および第二項は、仮に執行することができる。

〔事実〕原告ら訴訟代理人は、

原告ら両名の請求として、

一 被告株式会社H商会は、別紙(イ)号、(ロ)号ならびに(ハ)号各物件目録記載のゴルフ用手袋を製造、販売してはならない。

二 被告S株式会社および被告Y化成株式会社は、前項記載のゴルフ用手袋を販売してはならない。」

との判決、および

原告Fの請求として、

「一 被告らは、おおのおのその占有する別紙(イ)号、(ロ)号ならびに(ハ)号各物件目録記載のゴルフ用手袋を廃棄せよ。

二 被告株式会社H商会は、原告Fに対し、金四、八〇〇円およびこれに対する昭和四六年一二月二〇日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三 訴訟費用は、被告らの負担とする。」

との判決

および、原告ら両名とも右判決に対する仮執行の宣言を求め、

その請求の原因として、

「一 原告藤田勇は、左の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)の権利者であり、原告藤田皮革株式会社(以下「原告会社」という。)は、昭和四六年一月一日藤田勇から本件実用新案権についての範囲全部の専用実施権の設定を受け同年一一月一七日その登録手続を経たものである。

名称 ゴルフ用手袋

登録番号 第九〇八〇六四号

出願 昭和四二年一月二一日

出願公告 昭和四五年一月二一日

実用新案出願公告昭四五―一三七九

登録 昭和四五年八月七日<中略>

〔判決理由〕一 <前略>本件考案は、

(イ) 手首のところをしめるようになつているゴルフ用手袋において、

(ロ) 背部中間位置両側部を内方に引張り締付け得るような緊締バンドおよび止具を取付け掌部のしわをとるようにしたゴルフ用手袋の構造

であること、被告Hが過去において、(イ)号、(ロ)号、(ハ)号各物件を製造してこれを被告Yに販売し、被告Yはこれを被告Sに販売し、被告Sはこれを一般小売業者に販売していたこと、なお、(ハ)号物件については、現在でもなお右のように製造販売していることについては、いずれも当事者間に争いがない。

二 そこで、右(イ)号、(ロ)号、(ハ)号各物件が、本件考案の技術的範囲に属するかどうかについて考える。

(一) (イ)号、(ロ)号、(ハ)号の各物件がいずれもゴルフ用手袋であること、(イ)号、(ロ)号の各物件がいずれも手首のところをしめるようになつているものであることについては、当事者間に争いがない。

(二) (ハ)号物件について、原告は、ファスナー舌片(3)と(6)とをたがいに止着すると、手首相当部分に縫着されているゴムテープ(2)は伸張し、その両端は(ロ)号物件における(4)のホックをはめたと同じ状態になり、これによつて手首のところをしめ得ると主張する。しかしながら、本件考案の構成要件は、前認定のとおり、1手首のところをしめるようになつているゴルフ用手袋であることと、2その手袋の背部中間位置両側部を内方に引張り締付け得るような緊締バンドおよび止具を取付けたことの両者であるから、そのうち、もともと、手首のところをしめる構成を欠く手袋であれば、たとえファスナー舌片(3)と(6)の止着による作用と、ゴムテープ(2)の伸張作用の両方により、掌部のしわをとるとともに手首のところがしめられる結果になつたとしても、右のような手袋は、前記構成要件の(イ)を充足しないものといわなければならない。本件登録実用新案は、前認定の特定の構成により手首のところをしめるという作用効果を収めるものであり、そのような作用効果ないし機能を有するものであれば、そのための構成いかんを問わないというものではないからである。(ハ)号物件であることについて当事者間に争いのない検乙第九号証によれば、ファスナー舌片(3)と(6)とを止着しない状態では、手首部の下縁から胛部の中央よりやや上部に向う切込部が存在するためもあつて、ゴム入りテープ(2)だけでは手首のところがしめられるようにはならず、他に独立してこのようなしめつけるのはたらきをする構成部分はないこと、すなわち、(ハ)号物件は、本件考案にいうところの手首のところをしめるようになつているゴルフ用手袋ではないことを認めることができる。右検乙第九号証によれば、ゴム入りテープ(2)の存在だけで手首のところが幾分しめられるようにはなるが、しかし本件考案でいう手首のところをしめるようになつているゴルフ用手袋とは、手首のところがしめつけられて、その締付だけで独立して手袋の脱落が防止できるようになつているゴルフ用手袋を意味するものであることは、本件実用新案公報の記載じたいから明らかである。

以上のとおりであるから、(ハ)号物件は、その他の点について判断するまでもなく、本件考案の技術的範囲に属しないことが明らかである。

(三) つぎに、(イ)号物件および(ロ)号物件が「背部中間位置両側部を内方に引張り締付け得るような緊締バンドおよび止具を取付け」ているかどうかを判断する。

前掲考案の詳細な説明の項の記載によれば、本件考案は、手首のところをしめるようになつているゴル用手袋において、甲部(掌の反対側)両側部を内方に引張り締付け得るような緊締バンドおよび止具を取り付けて掌部のしわをとることを目的としたものであり、「背部中間位置」とは、手の背面の中間部分、すなわち、ひろく手の甲部を指していることが認められる。このことは、原告主張のように、背部とはどこを指し、その中間位置とはどこを指すというように分解することなくして、実用新案公報の記載全体の趣旨より解することができる。実用新案公報添附図面第一図には、緊締バンドおよび止具は甲部の横方向のほぼ中間に止着してあるものが図示されているが、右図面は単なる実施例を示したものにすぎず、このことをもつて、被告主張のように「背部中間位置」とは甲部の横方向における中心位置であると解されなければならないとすることはできない。被告らは、本件実用新案の出願人が最初に提出した顧書に添附された明細書には緊締バンドを「胛部(背部)中間に」あるいは「胛部中間に」取り付ける旨記載されていたのを、現明細書では「背部中間位置」と改め、明らかに胛部(背部)における特定の位置を示すものとして規定したから、本件考案における背部中間位置という位置規定は、胛部の横方向における中心位置を規定しているものと解さざるを得ないと主張する。なるほど、本件実用新案の最初の出願書には被告らが主張するような言葉が使用され、拒絶理由通知を受けて現明細書のように訂正されたものであることを認めることができるが、拒絶理由通知は、右通知書に記載された公知文献とされているものをみても、何故にその文献の存在することが拒絶の理由となるのか理解することができず、したがつて、出願人としても単に「各引例のものは、手袋の背面と手首部を夫々狭縮して手袋の脱落を阻止するという個々の概念的なものとして本願考案と似ていますが、その具体的な構成は本願のものと全然異なり、その作用、効果においても著しい差異があります」ときわめて抽象的な意見しか述べ得なかつたのであり、この点からも、本件考案の技術的範囲を考えるのに右出願の経過は参考となり得ないのみならず、本件考案においては、明細書の記載に基づいてその技術的範囲を確定しうるものであること前説明のとおりであるから、その解釈のために出願の経過を参考にすることはそもそも相当でないのである。被告らの主張は理由がない。

本件考案の構成要件中「背部中間位置両側部を内方に引張り締付け得るような緊締バンドおよび止具を取付け」るとは、緊締バンドおよび止具が取り付けてあり、その緊締バンドおよび止具が前説明のような背部中間位置の両側部を内方に引張り締め付け得るようなものであれば足りることは一目瞭然であるところ、(イ)号物件におけるベルベット式ファスナー(7)、(8)、(ロ)号物件における同(11)、(12)はいずれも甲部の横方向における中央線よりも幾分下部にあるとはいえ、前説明の意味での背部中間位置にあり、これを止着することによつて背部中間位置の両側部を内方に引張つて締め付け得、(イ)号物件におけるベルベットファスナー(8)、(ロ)号物件における同(11)は本件考案における緊締バンドに、(イ)号物件におけるベルベットファスナー(7)、(ロ)号物件における同(12)はいずれも本件考案における止具に相当するものと認められるから、(イ)号物件および(ロ)号物件はいずれも本件考案の右要件を充足するものであるというべきである。被告らは、(ロ)号物件のファスナーは単なる止具にすぎないというが、緊締バンドであるか止具であるかは単なる言葉の相違にすぎず、ファスナーが本件考案にいう緊締バンドの作用効果を発揮していると認められるから、これを緊締バンドと称してなんら差支えない。

被告らは、また、背部中間位置両側部分が内方に引張られ締付けられるのは直接的であるか間接的であるかを問わないとすれば、既往のゴルフ用手袋はすべて包含されてしまうことになるから許されないというが、当裁判所は、(イ)号物件および(ロ)号物件が、ゴム入りテープ(11)、(11)および同(7)、(8)が介在することによつていずれも間接的にファスナーによつて背部中間位置両側部が内方に引張られ締め付けられるものと認定しているのではないから、被告らの右主張は理由がないのみならず、本件考案は右の要件に尽きるものではないから、この点からも、被告らの主張は理由がない。

(四) 被告らは、(イ)号物件、(ロ)号物件においては掌部のしわを完全にとることはできないというが、しわが完全にとれるかどうかは右物件が本件考案の技術的範囲に属するかどうかとは関係のない事柄である。

三 以上説明のとおり、(イ)号物件、(ロ)号物件は、本件考案の技術的範囲に属する。

ところで、被告Hが昭和四六年七月一五日から同年一一月一五日に至るまで(イ)号物件を少くとも一〇〇枚業として生産し、譲渡したことは、当事者間に争いがなく、被告Hにおいて右行為につき特に過失がなかつたとの点についてはその立証がなく、被告Hは、少くとも本件実用新案権侵害について過失があつたものと認定される。しかして、(イ)号物件の小売価格は一枚金一、六〇〇円であることは当事者間に争いがなく、実用新案権一般について通常実施料率が三パーセント程度であることは被告Hの認めるところであり、本件についてこれと異なつた認定をなすに足りる資料はないから、原告Fは右小売価格の三パーセントに相当する金四八円に一〇〇を乗じた金四、八〇〇円を本件実用新案権の実施に対し通常受けるべき額の金銭として、同額を自己が受けた損害としてその賠償を請求しうるものである。

四 被告らは、現在(イ)号物件および(ロ)号物件をいずれも製造または販売していないというが、被告らが昭和四六年七月頃から(イ)号物件および(ロ)号物件を製造または販売していたことは被告らのいずれも認めるところであり、その後被告らがその製造または販売をやめたとのことは被告らの立証しないこところであるから、被告らは現在においてもなお(イ)号物件、(ロ)号物件を原告主張のように製造し販売しまたは少なくともそのおそれがあるものと推認するのが相当である。

五 よつて、原告らの請求のうち、原告Fおよび原告会社が被告Hに対して(イ)号および(ロ)号の各物件の製造販売の差止および被告S、被告Yに対して同物件の販売の差止を求める部分、ならびに原告Fが各被告らに対してその占有する(イ)号および(ロ)号の各物件の廃棄を求める部分および被告Hに対して金四、八〇〇円およびこれに対して本件訴状が同被告に送達された日の後であること記録上明らかな昭和四六年一二月二〇日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による金員の支払を求める部分はこれを正当として認容し、その余の部分はいずれも失当であるからこれを棄却する。

(荒木秀一 高林克巳 野沢明)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!